結局「働きがい」とは何なのか?給料だけでは満たされない理由と給料との複雑な関係性を徹底解説
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「働きがいを求めて転職しました」
近年、ビジネスシーンで最も注目されるキーワードの一つ、「働きがい」。
多くの人がこの言葉に惹かれ、企業も
「働きがいのある職場づくり」
を経営の最重要課題と位置付けています。
しかし、その一方で、こんな疑問を抱えていませんか?
「給料が上がれば、それで十分なのでは?」
「働きがいって、結局は精神論でしょ?現実的じゃない…」
この記事は、あなたが抱えるその疑問に、心理学、経営学、そして具体的な事例を交えながら、徹底的に答えを出します。
単なる精神論で片付けられない「働きがい」の科学的な根拠と、給料との複雑な関係性を解き明かすことで、あなたのキャリア観を根底から変えるきっかけとなるでしょう。
「働きがい」を構成する3つの要素:なぜ人は仕事に充足感を求めるのか?
「働きがい」という漠然とした概念を理解するためには、まずその構成要素を分解する必要があります。
アメリカの心理学者、エドワード・デシとリチャード・ライアンが提唱した「自己決定理論」によると、人間は生まれつき、以下の3つの内発的な欲求を満たそうとします。
これらが満たされたときに、私たちは心から「働きがい」を感じるのです。
1-1. 貢献実感:誰かの役に立っている感覚(関係性の欲求)
人間は社会的な生き物であり、他者とのつながりや、誰かの役に立っているという実感が不可欠です。
お客様の喜び
自分が提供した商品やサービスで、お客様が笑顔になったり、感謝されたりする瞬間です。
コールセンターのオペレーターが
「ありがとう、あなたのおかげで助かりました」
と言われたとき、介護士が利用者から心からの笑顔を見せられたとき、人はこの上ない充足感を得ます。
チームへの貢献
チームの目標達成に自分の仕事が不可欠だったと実感できる瞬間です。
プロジェクトが成功したとき、自分の担当部分がなければ成り立たなかったと認識できたとき、人は「自分はこのチームにとって価値のある存在だ」と感じます。
社会への貢献
自分の仕事が、社会全体の課題解決に繋がっていると実感できる瞬間です。
環境問題に取り組む企業や、医療サービスを提供する企業で働く人は、この感覚を強く感じやすいでしょう。
1-2. 自己成長実感:昨日よりも成長している感覚(有能感の欲求)
新しい知識やスキルを習得したり、困難な課題を乗り越えたりしたときに感じる「成長」の感覚も、働きがいを構成する重要な要素です。
スキルの向上
業務を通じて新しいスキル(例:プログラミング、マネジメント)が身につくこと。
新しいツールを使いこなせるようになったり、プレゼンテーションがうまくなったと実感できたときに、有能感が高まります。
挑戦と克服
自分の能力を少し超えるような難しい仕事に挑戦し、成功体験を積むこと。
挑戦的な目標をクリアしたときに得られる達成感は、給料だけでは得られない大きな喜びです。
知的な刺激
新しい分野の知識を学び、常に頭を使っている感覚。
単調な作業の繰り返しではなく、常に新しい課題に直面し、解決策を考えるプロセスそのものが、人を成長させます。
1-3. 承認実感:自分の価値が認められている感覚(自律性の欲求)
自分の存在や成果が、他者から認められることで得られる「承認実感」。
これは、給料と同じくらい、あるいはそれ以上に重要になることがあります。
感謝の言葉
上司や同僚、お客様から「ありがとう」「助かったよ」と感謝されること。
正当な評価
頑張りや成果が、昇進・昇格、チーム内での役割といった形で正当に評価されること。
信頼の獲得
重要な仕事を任されたり、相談されたりすることで、信頼されていると実感すること。
裁量権を与えられ、自分のやり方で仕事を進められることも、この欲求を満たします。
「働きがい」と「給料」の複雑な関係性:ハーズバーグの二要因理論とマズローの欲求5段階説
なぜ人は給料だけでは満足できないのでしょうか?この問いを解き明かす鍵は、心理学者フレデリック・ハーズバーグの提唱した「二要因理論」と、アブラハム・マズローの「欲求5段階説」にあります。
2-1. 給料は「衛生要因」である:最低限の不満を解消する役割
ハーズバーグは、仕事に対する満足度を「動機づけ要因」と「衛生要因」の2つに分けました。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 衛生要因(Hygiene Factors) | 給料、福利厚生、労働環境、人間関係など。 |
| 動機づけ要因(Motivator Factors) | 達成、承認、責任、昇進、自己成長など。 |
ハーズバーグは、給料などの「衛生要因」が満たされても、満足度は上がらないとしました。
しかし、それが満たされないと、不満を感じてしまうのです。
この考え方を給料に当てはめると、給料が低いと生活への不安から不満が募ります。
しかし、給料を上げても「不満がなくなる」だけで、それ自体が「やる気」や「働きがい」を継続的に生み出すわけではないのです。
給料は、不満を解消する「予防薬」のようなもので、それ自体がモチベーションを継続的に高める「特効薬」にはなり得ません。
2-2. 働きがいは「動機づけ要因」である:内発的なやる気を生み出す
一方で、「働きがい」を構成する貢献、成長、承認といった要素は、「動機づけ要因」にあたります。
これらが満たされると、人は自発的にやる気や意欲を高め、より高いパフォーマンスを発揮するようになります。
この関係性は、マズローの「欲求5段階説」でも説明できます。
給料は、生理的欲求や安全の欲求といった「下位の欲求」を満たすためのツールです。
しかし、人はそれらが満たされると、所属と愛の欲求、承認の欲求、そして自己実現の欲求といった「上位の欲求」を求めるようになります。
働きがいは、この上位の欲求を満たすためのものです。
2-3. 給料と働きがいの理想的な関係性
給料と働きがいは、どちらか一方が優れているわけではありません。
この両者がバランス良く満たされることが重要です。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 給料が最低限の不満を解消する | 生活を維持できる水準の給料があり、待遇に大きな不満がないこと。これが土台となります。 |
| 2. 働きがいがモチベーションを高める | その上で、仕事を通じて貢献、成長、承認といった「働きがい」を感じられること。 |
この両輪が揃ったときに、人は最も高いパフォーマンスを発揮し、エンゲージメント(会社への愛着や貢献意欲)が高まり、結果として定着率も向上します。
働きがいを阻害する「5つの要因」と対処法
働きがいを創り出す努力と同じくらい、それを失う要因を排除することも重要です。
3-1. 評価の不公平感と報酬制度のミスマッチ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 阻害要因 | 成果や努力が正当に評価されない、評価基準が曖昧、上司の好き嫌いで評価が決まる。 |
| 対処法(個人) | 上司に評価基準を確認し、自身の貢献を定期的に報告する。 |
| 対処法(組織) | 目標管理(MBO)や360度評価など、多角的な評価制度を導入し、評価の透明性を高める。 また、年功序列制度から成果主義・能力主義への移行や、年俸制の導入など、時代に合わせた報酬制度の見直しも重要です。 |
3-2. 仕事の単調さ、目的の不明瞭さ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 阻害要因 | 常に同じ作業の繰り返しで飽きてしまう、自分の仕事が何に繋がっているのか分からない。 |
| 対処法(個人) | 既存の業務に新しい工夫を加えたり、マニュアルを改善するなど、自ら仕事に変化を生み出す 「ジョブ・クラフティング」を実践する。 |
| 対処法(組織) | 業務に目的や意義を持たせるために、ビジョンを浸透させたり、定期的に成功事例を共有する。 |
3-3. 人間関係の悪化とコミュニケーション不足
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 阻害要因 | ハラスメント、チーム内の対立、孤立感、コミュニケーション不足。 |
| 対処法(個人) | 助けを求める、信頼できる同僚や上司に相談する、必要であれば人事部門に報告する。 |
| 対処法(組織) | 1on1ミーティングやチームビルディング研修を定期的に実施し、風通しの良い職場環境を作る。 ハラスメントに対する厳格なルールを設ける。 |
3-4. キャリアの閉塞感
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 阻害要因 | 将来のキャリアが見えない、スキルアップの機会がない。 |
| 対処法(個人) | 上司にキャリアプランを相談し、具体的な目標を共有する。 社内公募制度や副業制度を利用して、新しい分野に挑戦する。 |
| 対処法(組織) | キャリアコンサルタントを導入したり、社内副業制度、兼業・副業を許可するなど、社員が自律的にキャリアを築ける環境を整備する。 |
3-5. ワーク・ライフ・バランスの崩壊
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 阻害要因 | 長時間労働、休日出勤が常態化し、プライベートな時間が確保できない。 |
| 対処法(個人) | 効率的な業務管理を徹底し、上司に業務量の調整を依頼する。 |
| 対処法(組織) | 労働時間を厳格に管理するだけでなく、フレックスタイム制やリモートワークを導入し、柔軟な働き方を認める。 |
働きがいを創出する企業の具体的な取り組み事例
働きがいを重視する企業は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
具体的な事例を見てみましょう。
株式会社サイバーエージェント
成果だけでなく、挑戦やプロセスを称える「CAJJ(CyberAgent Job Journal)」という社内SNSを運営。
社員同士が互いの頑張りを認め合う文化が根付いている。
株式会社メルカリ
「Go Bold(大胆にやろう)」というバリューを掲げ、失敗を恐れずに挑戦する文化を醸成。
プロジェクトの成功・失敗に関わらず、学びを共有する「ふりかえり」を重視している。
株式会社カヤック
「面白法人」として知られ、「旅費全額支給」や「サイコロ給」など、ユニークな福利厚生を通じて、社員がクリエイティブな発想を持てるように支援している。
星野リゾート
従業員が自らアイデアを出し、企画・実行する「星野式」の運営スタイルを導入。
これにより、社員は「貢献実感」と「自己成長実感」を強く感じながら働くことができる。
最新トレンドが「働きがい」に与える影響
テクノロジーの進化や価値観の多様化は、「働きがい」のあり方を大きく変えつつあります。
5-1. リモートワークと働きがい
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 通勤時間の削減や柔軟な働き方による「自律性の欲求」の向上、個人の裁量権の拡大。 |
| デメリット | 同僚との直接的なコミュニケーションが減り、「貢献実感」や「承認実感」が薄れる可能性。 孤立感や孤独感を感じやすくなる。 |
| 対策 | ビデオ会議での雑談時間の設定、オンラインツールを活用したチームビルディング、定期的な対面での交流機会の創出などが重要です。 |
5-2. AI・RPAと働きがい
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| AI・RPAが代替するもの | 単純なデータ入力、定型的な問い合わせ対応など、単調でクリエイティブではない業務。 |
| AI・RPAがもたらす機会 | 単調な業務から解放された従業員は、より創造的で、人間にしかできない業務(例:コンサルティング、顧客との信頼関係構築、企画・戦略立案)に集中できるようになります。 これにより、「自己成長実感」や「貢献実感」が高まる可能性があります。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 給料が低い場合、働きがいは見出せないのでしょうか?
A. 給料が生活を圧迫するほど低い場合は、まず給料への不満が解消されないため、働きがいを見出すことは非常に困難です。
しかし、生活に問題がない程度の給料であれば、仕事の「動機づけ要因」に焦点を当てることで、働きがいを高めることは可能です。
Q2. 働きがいのある会社を見つけるには、どうすればいいですか?
A. 「働きがい」を構成する3要素(貢献、成長、承認)を軸に会社を評価してみましょう。
- 貢献: 会社の事業内容が社会にどう貢献しているか、自分の仕事がどう顧客に影響するかを具体的にイメージできるか。
- 成長: 挑戦的なプロジェクトやスキルアップの機会があるか、キャリアパスが明確か。
- 承認: 社員同士で感謝を伝え合う文化があるか、成果だけでなくプロセスも評価されるか。
これらを面接で質問したり、OB/OG訪問で尋ねてみましょう。
Q3. 「やりがい搾取」との違いは何ですか?
A. 「やりがい搾取」は、本来給料や待遇で報いるべき労働に対し、不当に低い対価しか払わず、精神的な満足感だけで従業員を働かせる行為です。
働きがいは、適切な給料を前提とした上で、さらに個人の内面的な充足感を満たすものです。
この「適切な給料」があるかどうかが、両者を分ける決定的な違いです。
Q4. リモートワークは働きがいにどう影響しますか?
A. リモートワークは、通勤時間の削減や柔軟な働き方による「自己管理」の側面で働きがいを高める可能性があります。
一方で、同僚との直接的なコミュニケーションが減り、「貢献実感」や「承認実感」が薄れるというデメリットもあります。
オンラインツールを活用したコミュニケーションの工夫や、定期的な1on1ミーティングが重要になります。
Q5. 「働きがい」を客観的に評価するにはどうすればいいですか?
A. 多くの企業が導入しているのが、エンゲージメントサーベイです。
これは、従業員が会社に対してどれだけ愛着や貢献意欲を持っているかを測る調査です。
この結果を基に、働きがいを構成する各要素(貢献、成長、承認など)がどの程度満たされているかを数値化し、改善策を立てることができます。
Q6. 給料アップと働きがい、どちらを優先すべきですか?
A. まずは、給料が生活に困らない水準にあるかを確認しましょう。
その上で、もし給料に大きな不満がないのであれば、長期的なキャリア満足度を高めるために「働きがい」を優先することをおすすめします。
給料は短期的なモチベーションにはなりますが、働きがいこそが、仕事に対する情熱や持続的なパフォーマンスを生み出す原動力となるからです。
まとめ:働きがいは「給料+α」の価値
「働きがい」は、単なる精神論ではなく、個人のパフォーマンスや組織の生産性に直結する重要な要素です。
- 給料は不満を解消する「衛生要因」であり、それ自体がモチベーションを継続的に高めるものではない。
- 働きがいはやる気を生み出す「動機づけ要因」であり、貢献、成長、承認の3要素で構成される。
- 給料と働きがいが両立したときに、最高のパフォーマンスと定着率が生まれる。
この記事が、あなたのキャリアやマネジメントについて考えるきっかけになれば幸いです。

























































































